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老化細胞とSASP(老化関連分泌性表現型)

執筆者の写真: あみきんあみきん


1. 老化細胞とは

老化細胞(senescent cells)は、細胞分裂能力を永久に失った細胞を指しますが、アポトーシス(プログラムされた細胞死)によって除去されるわけではなく、長期間組織内に留まります。この状態は、損傷したDNAやストレス応答、過剰な増殖シグナル(例:がん抑制遺伝子p53の活性化)などによって引き起こされます。

特徴:

  • 細胞周期が停止している(増殖しない)。

  • アポトーシスを回避するメカニズムを持つ。

  • 特異的なバイオマーカー(例:p16^INK4a、β-ガラクトシダーゼ活性)を持つ。

老化細胞は加齢とともに体内に蓄積し、組織機能の低下や炎症を引き起こすと考えられています。

2. SASP(老化関連分泌性表現型)

SASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype)は、老化細胞が周囲の環境に対して分泌する多様な分子群を指します。これらの分子は、主に炎症性サイトカイン、ケモカイン、成長因子、プロテアーゼなどで構成されます。

SASPの主な分子:

  • 炎症性サイトカイン: IL-6、IL-1β、TNF-α など。

  • ケモカイン: CXCL1、CXCL8(IL-8)など。

  • 成長因子: VEGF、TGF-β など。

  • プロテアーゼ: MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)群。

3. SASPの影響

ポジティブな影響(若い組織や急性状態):

  • 創傷治癒組織修復を促進。

  • 周囲の細胞にシグナルを送り、免疫系を活性化して老化細胞を除去。

  • がん化した細胞の増殖を抑制(細胞周期停止や免疫監視を通じて)。

ネガティブな影響(加齢や慢性状態):

  • 慢性炎症(インフラマジング)を引き起こす。

  • 周囲の健康な細胞や組織を傷害し、機能低下を促進。

  • がんの微小環境を形成し、がんの発生・進行を助長。

  • アルツハイマー病や動脈硬化、2型糖尿病などの加齢関連疾患の進行に寄与。

4. 老化細胞とSASPを標的とした治療

治療戦略:

  1. セノリティクス(senolytics): 老化細胞を選択的に除去する薬剤。

    • 例: ダサチニブ、ケルセチン、ナビトクソスタット(フェキサラミン)など。

  2. セノモジュレーター(senomorphics): 老化細胞を除去せずに、SASPの分泌を抑制する薬剤。

    • 例: mTOR阻害剤(ラパマイシン)やメトホルミン。

  3. 免疫系の活性化: 老化細胞を免疫細胞によって効率的に除去させる。

期待される効果:

  • 炎症の軽減。

  • 組織の若返り。

  • 加齢関連疾患の予防や治療。

5. 研究の進展と課題

  • 基礎研究: 老化細胞やSASPの役割は疾患や組織によって異なるため、さらなる研究が必要。

  • 臨床応用: セノリティクスやセノモジュレーターは動物実験で有効性が確認されつつありますが、人間への適用にはまだ課題が残っています。

老化細胞とSASPを標的にすることで、健康寿命の延伸や老化関連疾患の改善が期待されていますが、安全性や長期的な効果を見極める研究が続けられています。


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